消防団
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日本が侵略された際に消防団は軍事転用できうるか―現役消防団員が考える

杉浦かおる
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ウクライナ情勢が緊迫化し、保有している投資信託や米国株がとんでもないことになっている杉浦かおる(@munenmusou_blog)です。

 

自分は本業の傍ら地域の消防団の班長として活動しております。

また、個人的な趣味としてミリタリーに関する書籍を読むことが多いうえ、学生時代は法学部で政治関係の専門科目の講義をいくつか受けていたことから国際政治学にも関心があります。

最近第二次世界大戦におけるロシアのパルチザンの抵抗方法について書かれた本「赤軍ゲリラマニュアル」を読みました。

パルチザンについてご存知の方は多いと思いますが、第二次世界大戦においてナチスドイツに対抗するためにロシア軍とは別に一般の市民が武器を取って戦ったのです。

彼らの中には教育水準が低く文字が読めない人も多かったとか。

その本を読む中で「日本本土が外国勢力によって侵略された場合、消防団が軍事転用できるのではないか」という考えが浮かびました。

今回、一人の消防団員として、消防団を軍事転用、民兵やパルチザンとして戦力化することは可能なのかについて考えていきたいと思います。

なお、自分の得意分野は労働法及び会社法であり、国際政治学、国際法については学部程度の知識です。あくまでもこれはにわかミリオタの思考実験ですのでその点はご了承ください。

ただ、消防団としての知識はそれなりにあるので、自分の寝言を補完していただけるような国際法に詳しい人やミリオタからのご意見は歓迎です。

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前提として

今回、消防団を軍事転用する思考実験をするにあたり、その動員を阻止する憲法的・法的な拘束については考慮しないものとします。

(もし、そちらの分野に詳しい方がいたらいろいろとご教授いただけると幸いです。)

さて、実際問題消防団を軍事転用することとなった場合、考えられるシナリオは2つ。

1つ目:日本が日中戦争のように国力に比して過大となる外征を行うか、国土を蹂躙され、現行の保有戦力ではとても対応できなくなり、早急に新たな兵士を必要とした場合。

2つ目:太平洋戦争末期においてオリンピック作戦が実行されたような、日本本土に敵軍が上陸した場合。

1つ目は憲法9条があること、国民の理解が得られないことからまず起こりえないとして除外します。

そうすると2番目のシナリオ、つまり敵軍が日本本土へ上陸し、在日米軍も役に立たず(小林源文の名作、バトルオーバー北海道レイドオントーキョーのように)、自衛隊の主力が蹴散らされたという状況をイメージしてみます。

こうなると、敵軍は自衛隊の残存兵力に対する掃討戦や、首都や主要都市の占領という状態に移行します。(ちょうど日中戦争における中国側の状況だと思うとわかりやすいかもしれません)

この場合日本政府が戦い続ける限り、主要都市の死守と並行しながら非占領地域における遊撃戦やかく乱を行い敵国にダメージを与える戦略を採ることとなるでしょう。

上記の場合における「非占領地域における遊撃戦、かく乱及び破壊活動」において、消防団員が活躍できる余地があるのではないかと考えます。

消防団の実力について

消防団員の人数について

現在のわが国の防衛戦力として、事実上の常備軍事力たる自衛隊に加え、準軍事力としての海上保安庁が挙げられます。

さらに、自衛隊には主に元隊員から構成される予備自衛隊即応予備自衛官に加え、完全な民間人から構成される予備自衛官補もいます。

一方で、減少の一途をたどっていますが、消防団員はいまだ80万人以上の人員を擁する一大組織であるのは間違いありません。

これらの人数をまとめたものが以下の通り。自衛隊や海上保安庁の隊員・職員数と比べてもその多さは目立つと思います。

組織名 人数(人)
自衛隊
(2020.3.31現在)
陸上自衛隊 138,060
海上自衛隊 42,850
航空自衛隊 42,828
統合幕僚幹部等 3,704
即応予備自衛官 7981
予備自衛官 47,900
予備自衛官補 4621
海上保安庁

(令和2年度、概数、事務官含む)

14,000
消防団員
(令和2年度)
818,478

消防団員の装備について

消防団の装備は火を消す装備とごく少数の救助資材がある程度です。

その中の主だったものについて記載していきます。

車両(消防車)が一つの分団(地域によって異なりますが30名程度:陸自における小隊に相当)に1~2台程度配備されています。

1台がポンプ車で、もう一台が資材を運ぶトラックです。

どちらも真っ赤な緊急車両であるため、戦闘に使うなら塗り替えないといけないでしょう。

また、防火服、鳶口、バール等の工具はどこの分団も所有しています。

その中で武器になるものと言えば鳶口ぐらいです。ただ、江戸時代に捕具として使われていた程度で白兵戦にも使えるとは思いません。

各隊員の個人装備と言えば、制服とヘルメット、ヘッドライト。

オレンジ色なので戦闘に投入されたら猟友会のベストのごとく目立つこと請け合いです。

また、無線機については一般的なトランシーバーとMCA無線を装備しております。

ただ、MCA無線は中継局を破壊された場合使用不可能となるでしょうし、暗号化もなされていないことから戦時での運用は見込めないでしょう。

これらのことから、消防団を軍事転用することとなった場合、その装備については(せいぜい車両以外)全く役に立たないものであることが考えられます。

消防団員個々人について

先述の通り、消防団員は一般市民から構成される非常勤特別職の公務員です。

彼ら(自分も含めて)は他に本業を持ち、休日や仕事終わりに消防に関する訓練をしています。

わずかな報奨金や出動手当の傍ら働く消防団員は実質的な有償ボランティアです。

あくまでも一般人が活動している消防団ですが、その能力については少なくとも非消防団員の一般人より優れている部分があるか思います。

下に詳述していきたいと思います。

消防団員が一般人より軍事転用に向いている理由

便宜上、非消防団員の一般市民のことを「一般人」と記載しました。

消防団の厳格な階級制度

出典:草加八潮消防組合HPより

上の図のように消防団は厳格な階級制度が敷かれています。

分団ごとに別の屯所(詰所)に控え、災害時には本団の指揮に基づき行動します。

ちなみに、自分はこの中で班長の地位にあります。

この班長は旧軍における班長と同義であり、日本陸軍であれば軍曹に相当する地位かと思われます。

5人程度の班を率いるもので、旧日本陸軍における分隊長の役割を果たすものと考えます。

このように消防団では軍隊同様の階級制度を擁しており、上下関係が明確であることから指揮命令系統がしっかりしているという点が軍隊と相似していると言えます。

基本教練が完了している

消防団の主な訓練は悪名高き「操法訓練」です。

これは、上の動画のように整列状態から仮想の火元(火点といいます)に対して放水するタイム及び安全確認の度合いや「節度(気合や動きの機敏さ等が反映される謎基準)」を点数化した競技です。

約50年前に現在の形になった(施行規則を読む限り)とされ、現在においてもその形をほとんど変えておらず、実態に即していないこと、訓練の負担から2022年現在大きく批判されています。

しかしながら、この操法訓練をはじめとした消防団の訓練は、軍隊における新兵教育のなかでの「基本教練」に類似しています。

敬礼や行進、各種礼法などは消防団員ならば(その程度は別として)一通り抑えており、軍隊における基本中の基本を理解しているため、万一にわか仕込みで軍事教練を行うこととなった場合、消防団員は全くの一般人よりも呑み込みや環境の変化にも早く慣れると思われます。

加えて、消防団員のほとんどは救命救急講習を定期的に受講していることもファーストエイドの観点からして有利かと思われます。

元自衛官の多さ

これはあくまでも自分の肌感覚なのですが、消防団員の中には結構な割合で元自衛官がいます

もっとも任期制自衛官がほとんどですが、彼らの知識にはいつも舌を巻かれる思いであり、消防団の実際の現場でも活躍しています。

もし、消防団が軍事転用された場合、元自衛官の団員が消防団全体を引っ張っていくことになるでしょう。

本職での知識・経験がある

何度も繰り返しますが、消防団は本業のある一般人による組織です。

逆にその本職での知識・経験が生きてくる現場もあります。

消防団の団員は第一次産業や建築業の人間が多いです。(この傾向は田舎ほど高いかと思います)

実際に林業や建築業の人間がチェーンソーや重機を使って大規模災害時に救助活動をした例は枚挙にいとまがありません。

地元の地理に精通している

消防団が最も優れているのは、地元の地理に精通している点でしょう。

これは地元出身者が多数を占めているうえ、普段のパトロール等で常に地域の状況を把握しているからです。

これは、敵国からの侵入者に対して圧倒的に優位であると言えます。

消防団が軍事転用された場合、どのような活動ができるか

ケース1:消火・救助活動

消防団の所在する自治体が攻撃された場合における消火や救助活動を行うケース。

これは最も実現可能性が高いと考えられます。

ちょうど消防団の前身組織たる戦時中の警防団に先祖返りするようなものです。

もっとも、消火及び救助活動は消防団の本旨たる活動であり、これを軍事転用と表現するのはふさわしくはないかと思います。

ケース2:パルチザン的活動

2つ目はパルチザン的活動です。

非占領地域での線路や道路、敵軍兵器等に対する破壊活動や、ゲリラ戦、また正規軍に対する道案内等の協力です。

破壊活動や直接的な攻撃に関しては専門的な軍事訓練が必要ですが、第二次世界大戦時におけるソ連のパルチザンは主にマニュアルをもとに独力で攻撃をしていたということから突然敵国が攻めてきた場合であっても長期的に見れば消防団をパルチザン化することは充分可能であるかと思います。

ただ、ソ連と違い日本には地理的な縦深がない(日本海側の多数地点に同時上陸されたらすぐに太平洋側まで進撃されてしまう)という点から日本本土でゲリラ戦を行えるかという点には疑問が残ります。(この点については自分より詳しい方の考察を聞きたいです)

ケース3:国民義勇隊的活動

最悪なパターンとして、太平洋戦争時におけるオリンピック作戦に対する日本の決号作戦のように、消防団を国民義勇隊として正規軍と正面戦闘させる考えです。

この場合、根こそぎ動員が行われると同義ですので、消防団員であるからという場合ではないでしょう(ほとんどの男子国民が徴兵されるでしょう)

ただ、消防団員であるという前述の強みを生かして国民義勇隊の(中では)精鋭部隊としてより前線に送られるのがせいぜいだろうと思われます。

総評:消防団は予備自衛官補の後詰めになりうる?

北方領土問題や尖閣諸島、また台湾有事の危険性など、日本を取り巻く国際環境は冷戦以後年々悪化しています。

また、ウクライナという主権国家が同じく主権国家たるロシアに攻撃されるといった第二次世界大戦以来の事件も起こっており、日本においても国土が脅かされる事態が発生しないとも限りません。

あくまでも、今回の記事は自分の妄想ですが、民間防衛という点について皆様も一度考えてみてはどうでしょうか?

戦時での殉職の場合は地方公務員災害補償法の対象なのか??

 

 

参考文献

古屋圭司, 石田真敏,務台俊介(2015)『“消防団基本法”を読み解く』近代消防社

レスター グラウ (著), マイケル グレス (著), Lester Grau (原著), Michael Gress (原著), 黒塚 江美 (翻訳)(2012)『赤軍ゲリラマニュアル』原書房

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筆者について
杉浦かおる
杉浦かおる
サラリーマン、兼業ブロガー
祖父から譲り受けた築50年の一軒家をちょこちょこ改造しています。
趣味はバイクとカメラと文章を書くこと
複数のブログを運営しています
7年務めた消防団を退団しました
読んだ人が少し役に立てるような記事を心がけてブログを書いています。
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