消防団
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消防団一斉退団事件について現役消防団員が思うこと

accident action danger emergency
杉浦かおる
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先日、消防団員が一斉に退団するというニュースがネット上を騒がせました。

参考:「自由な服装で出動させてほしい」と服装規定に反発 消防団員が一斉退団

これについてTwitterでは色々なことが書かれていますが、その多くは現役消防団員の自分から見て的ハズレなものばかり。

今回の事件については、退団した分団員、指示を下した本団・役所・消防署、このどちらにも一理あります。

今回は現役消防団員で奉職6年目の班長である自分が今回の事件について自分の経験から感じること、思うことについて書いていきたいと思います。

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今回のニュースについて

あくまでも今回の考察は下記のニュースの内容だけをもとに考察するため、実際の状況とは異なる可能性があることにご留意ください。

 埼玉県入間市中心市街地を管轄する同市消防団第1分団第1部の団員13人全員が6月30日に一斉に退団し、第1部が廃部になることがわかった。

 出動時の服装規定に対する不満が退団理由とみられる。住民は中心市街地の防災力の低下を懸念しているが、同消防団は「火災や災害の発生時は全体で対応するので問題ない」としている。

 市消防団や市によると、火災現場への出動時は防火服や活動服の着用がルールだが、第1部の団員の一部は「昔と同じように自由な服装で出動させてほしい」などと反発。実際に団員がTシャツ姿で現場に向かい、幹部が注意することもあったという。意に沿わない規定を受け入れることができなかったとみられ、団員のうち12人は今月16日、残りの1人も20日に西沢宏志団長宛ての退団届を出した。

https://news.livedoor.com/article/detail/24520759/

今回のニュースにおいては退団した団員と「活動服着用の強制」を指示した本団・役所・消防署側どちらにも一定の理があるものと考えられます。

逆に言うとどちらにも理があるからこそ不満が表出したものとも言えるでしょう。

ただ、個人的には単なる「活動服着用の強制」だけが一斉退団の原因ではないとは思います。

ちなみに私が所属している消防団においても数年前から「出動時における活動服の原則着用」が求められていますが、特に反発は起きていません。

退団団員側の主張と考えられるもの

火災発生時にはとにかく駆けつけることが第一、着替えていられない

消防団は火災を消すだけが仕事ではありません。

台風・洪水時は土嚢積み、地震発生時には救助活動や防潮扉の閉鎖、山間部や田舎においては行方不明者発生時の山狩りや野焼きなどなど

様々な活動のために出動します。

台風や訓練、イベントごとなどの事前に予期できる出動時に活動服を着用してから出動することは当たり前ですし、それを否定する消防団員はいないでしょう。

しかしながら、火災は突発的に起こります。

自分も何度も火災のために出動したことがあります。

そのために着替えてられないというのは当然です。

仕事中や深夜、早朝などに連絡が入ったらすぐに屯所(自分が所属する分団の資材置き場兼集会所)まで駆け出さないといけません。

自宅から出動するならともかく、職場から出動する場合には活動服を持っていないこともあります。

「会社から一旦自宅に帰って着替えて屯所に行っていたら全焼するだろ!」

という消防団員の意見は当然あるものと思われます。

消防車に防火衣が積んであるのに活動服を着用してから出動する必要があるか

「消防車に防火衣が積んであるから別に活動服を着用する必要はないだろ」という意見も消防団員側から噴出したものと思われます。

そもそも活動服というのは下記の写真のような消防団員の制服です。
引用:https://www.shoubou.net/?pid=152305474

生地は綿100%か化繊混紡。

デザインを除けばワークマンで売っているような作業着と性能は同一、防火性能はありません。

防火衣は要するに耐熱服のことです。
出典:http://www.imajo.co.jp/apparel/269/

現場における消防士(常備消防)との区別をつけるためデザインは多少異なりますが、耐火性能を備えています。

この防火衣については上下がありますが、上はコートのように一般の服の上から羽織るもの、下についても長靴付きのチャップスみたいなもので現場で着替えてもなんの支障もありません。

消防団員的には
「私服で駆けつけ現地で着替えて何が悪い」

「活動服は耐熱性がなく消火活動に性能的に関係ない」

という意見が出てもおかしくないでしょう。

もっとも残火処理などにおいて受傷防止のため長袖長ズボンの活動服を着用するのは重要ですし、出動してから着替えることについては今回退団した団員も決して反発するものではないと思われます。

本団・役所・消防署側の主張と考えられるもの

私服では野次馬と消防団員との区別が難しいから活動服を着用してほしい

活動服着用の強制の理由としては、現場の混乱の防止があげられるでしょう。

火災現場を規制したときに消防団員なのか野次馬なのか、私服ではわかりません。

さらに消火活動を善意で手伝ってくれるOB団員もいます。

(実際火災現場で手伝ってくれたが誰なのか分からず現場が混乱した経験があります。)

また私服でバラバラと集まってくるのは消防団として見た目がみっともないのも理由の一つでしょう。

五月雨式に団員が集まると現場が混乱する

次に考えられるのが「分団・班ごとにまとめて現場に来てほしい」

という理由です。

一般的な消防団における火災時の出動は

・早めに屯所に来た数人が荷物をまとめてとりあえず現場に消防車で出動

・遅れた人が現場に三々五々に到着

というものでしょう。

自動車で現場に行く人も多いのでその分火災現場周辺は消防団員の路上駐車などであふれることなるうえ、次々に集まってくる人員を管理・指揮するのは大変であることは間違いありません。

自分も団員時代に遅れて参集して自分の分団がどこにいるかを探しているうちに消火が完了したり、班長時代の火災現場において何人自分の団員が集まっているかが分からない状態に陥ったりという経験があります。

これらのことから「人員がある程度集まってから出動してほしい」という本団・役所・消防署の考えもある面では正しいといえます。

そもそも「出動時の服装」だけで一斉退団にはならない、他の理由があるはず

現役消防団員として、「火災出動時における活動服の強制」だけで13人が一斉退団するとは考えにくいです。

数人の熱い男達が憤慨して抗議の辞職をするのならまだ考えられますが、全員が退団するのはこの件だけでなくなにかしら前々から幹部・本団・役所・常備消防との軋轢があったのではないでしょうか

コロナ禍が徐々に過去のものとなりつつありますが、2021年ごろのコロナウイルスが猛威を振るっていた頃において消防団員は感染拡大と地域防災のはざまで悩まされました。

屯所でクラスターが発生した話も聴いたことがあります。

また、出初式や操法大会の訓練など従来から不要・縮小すべきであった各種行事が中止となりましたが、これによって不都合はほとんど起きていません。

しかしながら、2023年現在においてそれらの行事がコロナ前と同様の形で再開される消防団も多い状況です。

あくまでも私の考えですが、こういった消防団の「変わるべき状況なのに変わらない」状況に嫌気が差していたところに「活動服着用強制」の話が出て不満が爆発したことによる一斉退団なのではないかと邪推します。

総評:消防団への理解・関心不足が深刻

一斉退団があくまでも「活動服の着用可否」に限るのであれば「おらが町を守るため1分1秒でも早く火災現場に行きたい」団員と「秩序を持って火災現場に参上してほしい」当局側との感覚のズレによるものと思います。

もっとも、これだけが理由でなく、いままでのニュースに出ていないなんらかの軋轢がこの一件で噴出したのだと思います。(ネットを見る限り現役団員・退団団員の方の多くも同様の考えのようです)

ただ、今回のニュースを見て自分が思ったことは「消防団が国民、特にネット民において全く理解されていないのだな」という落胆でした。

消防団と常備消防との区別もつかない人が上から目線で適当なことを書き、地方議員が不用意なことを書いて現役消防団員に叩かれて炎上する。

見ていてだいぶ情けない状況です。

消防団は長い歴史を持ち、地域になくてはならない存在なのは変わりません。

しかしながら操法大会や不適切な公金支出、コンパニオンや飲み会などの負担から団員の構成員はどんどん減っています。
※個人的には少子高齢化だけが消防団員現象の理由とは思ってません。

このニュースを受けて良い点も悪い点もある消防団について関心・理解・参加をしてほしいと思いました。

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筆者について
杉浦かおる
杉浦かおる
サラリーマン、兼業ブロガー
祖父から譲り受けた築50年の一軒家をちょこちょこ改造しています。
趣味はバイクとカメラと文章を書くこと
複数のブログを運営しています
7年務めた消防団を退団しました
読んだ人が少し役に立てるような記事を心がけてブログを書いています。
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